- 試写会場は、笑いに包まれていた。コメディ映画よりも、皆ちょっとだけ大きな声で笑っている気がした。私もそうだ。まるで今初めて笑い出したことを誤摩化す ように。いやね、ずっと私もおかしいと思ってたのよ、とでも言いたげに。嘘だね。きれいに騙されていたはずだ。誰に? ……誰だろう。笑いながら、ひどく ひりひりしている。きっと今年最高のひりひりだ。
西川美和映画監督
- 誰一人、笑わせようとしていないのに、
なぜか、そこはかとなく可笑しい。
真剣さと滑稽さは近いのかもしれない。
そして、人間社会って、そんな曖昧で、
整っていなくて、まだら色のものが実は
あふれているんだな~と気付かされる。
私にとって、確かな事は、
佐村河内さん家の猫が、すごく
可愛いという事ぐらいかもしれない。
赤江珠緒キャスター
- この作品を観たら、無邪気な視聴者でいることはできなくなるだろう。レンズを通した視点はつねに誰かのもの。私たちはほんとうに、見えて、聞こえているのだろうか?
今日マチ子漫画家
- 佐村河内守とは何者だったのか? もちろん、それは一つのテーマである。しかし同時に、ドキュメンタリーとは何なのかという問いを、森監督は自らに突きつけている。その曝け出された姿にこそ、私たちの「信頼」の可能性がある。
平野啓一郎小説家
- 世間がFAKEと決めつけた人の実像は何か。途轍もない「怪物」は意外なところに潜む。ラベルを付けて安心したがるメディアからは、決して見えない「真相」。人間の底知れなさに震える結末。「FAKE」は、愛と希望の傑作だ。
茂木健一郎脳科学者
- 人のイメージなどメディアを通せばいかようにでも操作できるという当たり前の事実を森達也ならではの手法で観客に鋭く突きつける傑作。鑑賞後全ての人が感じる「もやもや」こそが、本来は「メディアリテラシー」と呼ばれるものだろう。
津田大介ジャーナリスト/メディア・アクティビスト
- 追い越したつもりだったけど、追い越された。悔しい気持ちで面白がった。僕は先輩からドキュメンタリーを使ってあっかんべーする姿勢に影響を受けていたのだ。この快感を15年待っていた。やっぱり森さんとは映画を通して話をするのが一番楽しい。
松江哲明ドキュメンタリー監督
- 世間の目を逃れひっそりと生きる、男と妻と猫一匹。そこへ戦略的に介入する、森達也監督。やがて立ち現れる感動と、それすらブチ壊そうとする演出。
優しさの仮面で我々に近づき、最後に胸ぐらを掴んで「おい、何が見える?」と問い詰める、真に恐ろしい映画。白石晃士映画監督
- よもや森さんのドキュメンタリーで泣くことになろうとは思わなかった。この作品を見た後では、世界の実態が違って見えるだろう。普通の善人だと思っていた人が、知らない生物に見えてくるだろう。見たらもう戻れないという覚悟を決めて、劇場に来るべし!
星野智幸小説家
- 正義でも悪でもない、ましてや真実だと他人に説明することなど不可能な「事実」からはみ出したところに、その人が生きるべき場所があったりする。『FAKE』のラスト12分はきれいな生き方をしてこなかった私にとっても、救いです。
岡映里作家、「境界の町で」
- 「ドキュメンタリーは嘘をつく」を描いた、森達也監督が佐村河内守という稀代のFAKEを題材に虚実の皮膜を描いたドキュメンタリー。
圧倒的なカタルシスと共に映画は終わるが、どこまでが嘘で、どこまでが真実なのか。
鑑賞後も、この映画の話は尽きることがないだろう。超大傑作。水道橋博士浅草キッド/漫才師
- FAKEには偽造する、見せかけるという意味を含む。つまり誰かが「仕掛けている」。白か黒か、ゼロか百かで判断してたらきれいに騙される。この映画はみた後が本番。とにかく語りたくなる。あれ、もしかして森達也監督も「仕掛けている」のか?
プチ鹿島芸人、『教養としてのプロレス』著者
- モヤモヤして
興奮させて
色んな人と熱く議論したくなる映画
森達也さんさすが岡村靖幸ミュージシャン
- すべての感想も批評も、この作品の歯車になるだけである。
ドキュメンタリーという魔性と、長年に渡り向き合い続けてきた森監督が導き出した答えは、剥き切れないメタのマトリョーシカを組み上げる、ということだったのではないだろうか。
という、この感想もまた…。小出祐介Base Ball Bear
- これは「不信」にかんする映画だ。誰も信じられない、という事実についての映画。
そしてこれは、それ以上に「信じること」にかんする映画だ。誰かを信じ(られ)るとは、どういうことなのか、についての映画。
虚実という言葉がある。だが、虚と実は別々のものではない。
この世界には、憎むべき曖昧さと、慈しむべき曖昧さとがある。この二つさえも複雑に入り交じっている。『FAKE』は、要するにそういう映画だ。佐々木敦批評家
- 後味の悪さたるや、前代未聞の映画である。しかし、それは嘘と紛い物にまみれ、それを糾弾する者もサディズムと憂さ晴らしで私刑に参加しているに過ぎない、薄っぺらいこと極まりない社会とせめて皮一枚隔てて生きるために必要な「良薬」の苦さなのだろう。
武田徹評論家/ジャーナリスト
- 凝視しないとあれこれ見逃すけれど、凝視したって見えないものは見えない。
たくさんのことが分かるけれど、どこまで分かったのかがちっとも分からない。武田砂鉄ライター
- この世にたった一人でいい、自分を本気で信じてくれる人がいたら、世界中の不信にも耐えられる。これは愛の映画だ! ……な~んて大感動したのは、森達也監督にハメられたのかな? いや、本当に驚きました!
中森明夫コラムニスト
- 音楽家視点での感想は「FAKE」ってタイトルこそすべてを表しているんでしょう?監督っ!ということだ。
ワム!に日本人のゴーストライターがいた?という疑惑に取り憑かれ、小説『噂のメロディ・メイカー』をまとめた僕にとって究極にツボな映画だった。西寺郷太NONA REEVES/音楽プロデューサー
- 客観的な報道は、情報を受け取る側の推理力にかかっている、という当たり前のことを、ニコニコと包丁研ぎながら説く作品。
コムアイ水曜日のカンパネラ
- 僕は、もう途中から奥さんメインで見ていました。
奥さんのチャーミングさが一番リアルでした。花くまゆうさく漫画家&イラストレーター
- 2時間の間に目まぐるしく移り変わる疑いの目。つまり自分も表面的な情報で人を善悪のどちらかにジャッジしたがっているのだ。
とにかくラストまで観て欲しい。そしてなぜ、佐村河内氏がこれほど有名になってしまったのか今一度考えれば、自分達がメディアに本当は何を求めているのかが露わになってくるはずだ。浅野いにお漫画家
- 本当はこの事件の事なんてどうでもいい。森さんのテーマに打って付けの出来事 だという事。
虚言?誠実?悪態?正義?完全に森達也のペースに乗せられた。藤原ヒロシ音楽プロデューサー
- 佐村河内氏と新垣氏のやったことは、大変なことだが、大したことではない。不幸にも成功してしまったことがすべてである。森さんには「FAKE」続編として 「共犯者」新垣氏を撮って欲しい。「A」に「A2」があるように。
友川カズキ歌手
- あなたは私を信じますか? 家族や恋人にそう聞かれたら、普通の人ならもちろんイエスと答えるだろう。でも森監督はリアリストだから、100パーセントはないよね、と答えるんですよ、ふふふ
ホンマタカシ写真家
- 『FAKE』は、佐村河内氏も新垣氏も両者ともゴーストであり、いや劇中のすべては視覚可能な幽霊であり、幻だということを証明してしまった。
『FAKE』とは真のホラー映画である。
ヴィヴィアン佐藤美術家/ドラァグクイーン
- 偽装、捏造、詐称、剽窃。これらの言葉は、滅多なことで使われるものではないのだが、最近では何のためらいもなく、人々が口にするようになった。黒と断定された人物は、よってたかって血祭りにあげられる。まるで現代の魔女裁判である。
ここに一人、「魔女裁判」にかけられて、深く傷ついた人がいる。
森達也さんは、その人の失意の日々を丹念に追って、実は障害に対する偏見や誤解が根底にある、という事実を引き出した。「最後の12分」がなくとも、十分に面白い。桐野夏生小説家
- バカにしか撮れない映画だ。その意味では観ても損はしない。
緑川南京作家/映画監督/大学教授
- 観客は最初、マスコミが作り上げたリアリティがガラガラ音を立てて崩れるのを感じる。
だから当初は「マスコミ=悪/森達也=善」という森達也らしからぬ二元図式を見出そう。
だがしかし、「我々が期待する真実」が「コレだ」と指し示される瞬間は最後まで訪れない。
むしろ我々は迷宮へと誘われ、収拾しようのない混沌の只中に放置されることになろう。
本作に於いてゴーストライター事件は、寓意を指し示すメタファー以上のものではない。
問題は、その寓意──「世界は確かにそうなっている」という納得──が指し示す内容だ。
観客はそこに「社会は一つの(悪)夢のようなものだ」という森達也特有の感覚を見出そう。
その(悪)夢は、善悪二元論や真偽二元論や美醜二元論によって言語的に構成されている。
森達也はこの言語システムの作動クロックに同期できず、いつも反応が遅れる未熟児だ。
だから社会批判の能動性より、社会という夢にシンクロできない受動性が際立つだろう。
だがその結果「知らないうちに自分たちはプログラムされている」との感覚がせせり出す。
本能が未発達なまま生誕するヒトは、実は誰もが外傷的にプログラミングされる他ない。
本作は、我々が社会を生き始めるに際して受け取った外傷体験を強制的に思い出させる。
そう、社会は間違いなく、善悪や真偽や美醜の二元論で言語的に構成された悪夢なのだ。宮台真司社会学者
※順不同/敬称略